目が覚めたら、春菊になったようだった。昨日から今日にかけてはサークル単位で行う学生会館の夜警で、途中力尽きてソファーで寝てしまった。たしか後ろでは先月引退した先輩がゲームの早クリアをやっていたはずだし、正面では後輩が痛々しいゲームをやっていたはずだ。しかし、どちらからも声も音もしないし、きっと夜警が終わる朝6時を過ぎたのだろう。で、4階にある部室までテレビやらゲーム機やらを運びにいったり、食べた鍋を片付けているのだろう。そんな風に周囲を窺ってみたが、さて春菊になった身としてはどうしたものか。なにせ色鮮やかで美味しそうな春菊だ。このままこんなところに横たわっていたら誰に食われるかもしれない。グレゴール・ザムザとは違う意味で身が心配だ。
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寒い朝はどうしてもトイレが近くなる。やれやれ、水も冷たい。さっさと帰ってメシ食って寝よう。とりあえずソファーで寝てる部長をたたき起こすか…。……? そこにあるのは一束の春菊。さっきまでやっていた鍋にも入っていた、あの蒲公英の葉っぱみたいな植物だ。間違いない。持ち上げてみると適度な重量感を返してくる。春菊について詳しいわけじゃないけれど、多分いいものなんだろう。つやつやしている。どうするべきか悩んでいるうちに階段の方から人声がする。よくわからないまま、とりあえず机の上に放置してサークルのメンバーと合流した。誰も部長がどこにいったか知らないらしい。荷物も置いて、どこにいったんだか…。
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○○に持ち上げられたはいいが、机の上に放置された。どうやら俺がみつからないからサークルの人間が俺の荷物をもってウロウロしている。まぁでもまさか春菊になってるとは思うまい。いい加減状況を諦観してきた。つまりはこういうことだ。20年人間として生きてきて、結局俺は春菊として終わるんだ。春菊が俺の終点なんだ。このままここに放置されて萎れたりしたら目も当てられない。せめてハリがあるうちに誰か食べてくれないかな。いやでも、熱いのはいやだ。バリバリと、生で。